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ナムジャイブログ
泰国春秋 第十三回 街歩きを偏愛するワケ

2009年11月10日

街歩きを偏愛するワケ

これを書いている10月末は雨がドシャーンと降って雷もやかましいが、11月も半ばになればタイはすっかり乾期に入り、過ごしやすい季節を迎える。となると観光シーズンが最盛期を迎えることになり、タイの南部に多いビーチリゾートは最も賑わう時期となる。ま、今年は金融危機の影響で人出が減るかもしれないが。
海辺やプール横でビーチチェアに寝そべり、読書でもしながら日ごろの憂さを忘れてノンビリ……というのが正しきリゾートライフの姿なのだろうが、筆者はこれがなぜかできない。本など持って行くこともあるが、はっきり言って読んだためしがない。遊ぶのに忙しい、というのでもなく、ジッとしているのが苦手なのである。根は怠け者なのに。
海外はリゾートよりも街がいい。美しい景色やファシリティーを見るのは確かに楽しいが、そんな何時間もうっとり見続けられるもんじゃない。それに比べ、街中の混沌は歩き見して飽きることがなく、人々の多様な動き、街角のニオイ、色の生々しさが五感に響く。そして食べ物だ。安いのも高いのも、珍しいものも街にはたくさんある。リゾートでは食事のチョイスが単調になりがちでしかも高く(特に酒!)、これが何となく許し難いのだ。
ということで旅はズンズンと歩ける都会に行くのが好きである。バンコクなんぞはそういう意味で最もピッタリくる街かもしれない。地区ごとに、ソイごとに表情が変わるのがたまらない。米国ならニューヨークとサンフランシスコであり、カナダならトロントだ。いずれも大きな街だが、ワンブロックが小さく、通りを一つ、また一つと歩くたびに路地の色の濃淡が変わるのが興奮となり、いつまでも歩き続けられる。ロサンゼルスやオースティン(テキサス州)、その他もろもろの都市は車でしか移動できず、微妙な変化が楽しめないのが駄目な感じである。せめて自転車が欲しいなといつも思うけれど、ロサンゼルス辺りでレンタサイクルも違う気がするのでやったことないが。
中国なら北京よりも上海であり、広州よりも香港である。こちらが捨てた鼻紙をニコヤカに拾って親切心を見せながら「5元くれ」とほざく奴は(中国の)街にしかいない。輝く世界と闇社会の陰影の差が深そうなところに、何かとんでもないことが起きるのではないかと期待感を抱かせるフォースが潜んでいる。最近は繁華街での爆弾テロなども多いから本当にとんでもないのだが、街はビーチリゾートなんぞは及びもつかない複雑で強力な波動で振動している。
米旅行誌「コンデナスト・トラベラー」によると、今年の読者投票で人気都市に選ばれたのは1位がサンフランシスコ、2位にチャールストン(サウスカロライナ州)が浮上し、ニューヨークは3位に転落なのだそうである。チャールストンと聞けば「5匹の子豚」しか思い浮かばないほど知らない(行ったことない)のだが、今後ここは歩いてみたい都市に加えたい。ちなみにアジアは1位がバンコクで2位がチェンマイとタイが上位を占めた。香港は3位だという。
あ、そうか。仕事柄、独りで旅をすることが多いので街を偏愛するのかもしれない。街中を誰かをつれて歩くのは気を遣って疲れそうだし、通りの表情の違いを楽しむのに没頭できない。
波の音にまどろむのも乙なものだが、喧騒がガラス戸1枚隔てて入ってくる部屋の方が熟睡できるのだ。実際には、よく歩くから疲れて深く眠れるのだろうが、リゾートホテルは空中に漂う粒子がなんとなく艶めかしくて眠るのがもったいなくなり、アカンのである。
といいつつ年末年始はどこに行くかというと、たぶんクラビとかそこら辺のリゾートである。辻褄が合わないようだが、家族と一緒なのでいいのである。独りでどこかの都会に出掛けたら、それはそれで問題になりかねないので。


三河正久(みかわ・ただひさ)日本経済新聞社バンコク支局長
1967年5月青森県八戸市生まれ。1992年日本経済新聞社入社。同社産業部や『日経ビジネス』編集部で企業取材を担当。2007年3月から現職。共著に『ゴーンが挑む7つの病|日産の企業改革』『トヨタはどこまで強いのか』など。温泉は田舎にあった方がよいかな。熱海など古くからある温泉街を歩いていると、そこはかとなく寂しくなってしまう気がするので。
Posted by Webスタッフ at 15:51