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ナムジャイブログ
泰国春秋 第十六回 パンデミック・ブルース

2009年11月27日

パンデミック・ブルース

午前2時過ぎに目を覚ました。体中の少なくとも8カ所が猛烈にかゆい。敵はおそらく1匹の蚊。酒飲み、汗かき、鼾かきの筆者は昔から蚊に刺されやすく、ヤツラの侵入には神経質なくらい注意しているのだが、暑くなったせいか被害件数は急増。たった4杯で太平の眠りを覚ました、幕末期のペリーの黒船をもじったお茶「上喜撰」も凄そうだが、蚊1匹でも超ペリー級に眠れない。
かゆさとともに気になるのが感染症である。バンコク週報を読むと定期的に1面トップに「デング熱、今年大流行の可能性」と記事が載る。なんか一昨年も昨年も同じ記事を読んだ気がするなと思いつつ、素直に警戒している。
蚊ならば侵入を防ぐことも可能だが、もっと恐ろしいのは見えないウイルス系の感染症である。すぐそこに敵がいても気づかない。どんなに警戒しても侵入する。そんな恐ろしさが今、世の中を覆い始めている。
世界で数百万人以上が死の危険にさらされる「新型インフルエンザウイルス」の脅威だ。鳥から動物やヒトへと感染する現在の鳥インフルエンザウイルスが変異し、ヒトからヒトへと感染する可能性が非常に強まっている。こうした新型インフルエンザの爆発的流行を「パンデミック」と呼ぶ。過去最大級は1918年の「スペイン風邪(インフルエンザ)」で、世界で約4千万人、日本でも約39万人が死亡した。
世界保健機構(WHO)によると、新型ウイルスのパンデミックに対する現在の警報局面は「フェーズ3」。これは「ヒト—ヒト感染がない、もしくは極めて限定的」で、養鶏場などの防疫対策で封じ込める段階だ。だがヒト—ヒト感染の増加が確認される「フェーズ4」になると危うい。感染の危険性はもちろん、社会生活に支障が出かねないからだ。
外務省は在留邦人にフェーズ3の現段階で「今後の退避の可能性も含め検討せよ」と推奨している。これがフェーズ4になると「出国できないか、現地で十分な治療が受けられない可能性がある」となる。タイ在留邦人や旅行者は「タイに居た」というだけで帰国できなくなる公算が大きい。昨年の空港閉鎖を超える悪夢だ。そうなると基本的に今住む所で感染予防対策を講じねばならない。
タイ生活では、これが大変だ。自分が気を付けていても、「ただの風邪」と思っているアヤさんや運転手さんとの接触で感染するかもしれない。タイ政府が日本ほど対策を周知徹底しないとか、タイ国民が個人的に治療する余裕がない恐れもある。買い物も行けない、電気や水道も影響を受ける、パニック化した人々であふれかえる病院で延々待たされたあげく、必要十分な治療を受けられないかもしれない。なにせ抗ウイルス薬の備蓄すら不十分なのである。
企業でも対策を取るところが急速に増え、我が社でも抗ウイルス薬やマスクが海外支局には配布された。家電大手パナソニックは十分な治療が難しいと判断したシンガポール以外のアジア、中東などの駐在社員に帯同している家族を帰国させるよう指示を出した。
帯同家族を早期帰国させる動きは広がる可能性がある。そうなるとタイに限っても経済に影響が出始める。バンコクマダム御用達のスパ・マッサージでは閑古鳥が鳴くだろうし、日本食店、日本系スーパー、リゾート地のホテル・レストランは軒並み経営に打撃を受ける。こうした店が顧客の無料情報誌だって…。
そんなことを盤谷日本人商工会議所の会議で会計士の先生と話していたら、先生曰く「家族がいない寂しさでカラオケ屋は繁盛するかも」…。そんな所にノコノコ出かけられるかは別として、何にしても結構な危険水域にいることを自覚した方がよさそうだ。


三河正久(みかわ・ただひさ)日本経済新聞社バンコク支局長
1967年5月青森県八戸市生まれ。1992年日本経済新聞社入社。同社産業部や『日経ビジネス』編集部で企業取材を担当。2007年3月から現職。共著に『ゴーンが挑む7つの病|日産の企業改革』『トヨタはどこまで強いのか』など。多くの企業が帰国命令を出すと引っ越し業者は忙しくなりそう。取材していてタイ人従業員の救援策まで考えている企業が少ないのは気にかかる。
Posted by Webスタッフ at 19:48