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ナムジャイブログ
泰国春秋 第二十六回  手惚れ

2010年01月16日

手惚れ

肉の間にグッとくい込んでくる、その巧みな指に惚れる——と書くと何のことやらとお思いでしょうが、見事にツボをついて痛みや疲れをほぐしてくれるマッサージ師に出会うと「ちょっと、その手を持って帰っていい?」と言いたくなる。マッサージが身近で安いタイに来て初めて、そんな思いを持つようになった。
いや、ツボの押し方だけではなくて、妙に触られて心地の良い手がある。幼いころ母や祖母に頭や手をなでられて寝入った時のような安堵感。リラックス感が最高の状態を作り出す。こういう手の魔力に陥落することを「手惚れ」と個人的に呼んでいる。触られる手にも確実に相性の善し悪しは存在すると思う。
現在通っているBTSプロンポン駅近くの「耳ツボダイエット」でも、施術する先生方の手にハマッている。福耳と言われることの多い筆者の耳は一般の人よりもさらに低温なようで、そこに先生方の温かい手で触られ、金の粒を張り付けてツボを刺激されると「もうどうにでもして」と降参状態になってしまう(口には出さないが)。
11月上旬に通い出して2カ月ほど経過したが、食事のコントロールを続けていられるのはそうした秘かな愉悦のおかげもある。ちなみに88キロに近かった体重は、この原稿を書いている新年正月現在、81キロを前後まで落ちた。目標は75キロだが、ビールがやめられないせいか最近はちょっと横ばい気味である。それでも飲む量は相当減り、夕食は炭水化物もほとんど取らなくなった。
なにかの拍子に軽く触られると「惚れが来る」のは男女を問わないようで、日常のちょっとした生活の中にも手惚れは潜んでいる。昨年末の「年忘れゴルフ」で筆者に付いてくれたキャディーさんは、ボールをヘボゴルファー(=筆者)に渡す時に、そっと指で手のひらに触れるのである。たぶん無意識にするのだろが、んー、悪くない。以前にインターネット掲示板で、若者が「コンビニで女性の店員が、僕の出した手をそっと包んでお釣りを渡してくれて惚れた」との書き込みが大きな共感を呼んだことがあったが、これと似た感覚だ。調子に乗ってスコアもちょっと良くなった。
1ラウンド終了してチップを払うと、「次に来た時は是非ご指名くださいね」だと。景気が悪くなって来場者が減ったゴルフ場では、キャディーさんも懸命なのだろう。ちなみにカラオケ屋でこれをやられても何の感興も呼び起こされなくなった。もう飲み屋系ではスレきって汚れてしまったアタクシなのである。
女性でも「男性の手や指の形」に惚れるというか妙に惹かれるという人は多いようで、エッセイストの酒井順子さんもそんなことを書いていた。その酒井さんが「読んで納得した」というのが、京都大学で動物行動学を研究したエッセイストの竹内久美子さんの著作『シンメトリーな男』だそうだ。竹内さんには『遺伝子が解く! 男の指のひみつ』(ともに文芸春秋社刊)という、遺伝子学を基に人間の不可思議な行動様式についてQ&A形式で答える著述をまとめた本もある。要は人間の体の末端を形成する指令を出す遺伝子は同一で、手足の指も男性器もその遺伝子が決めるため、女性は見やすい男性の手の指を本能的にみている、という説だ。
特に人さし指より薬指が長ければテストステロンという男性ホルモンが多くて精力も旺盛、という竹内説は、東京・銀座のクラブに通うオジサマたちの間で当時、常識になったとか。竹内さんの論拠には科学者らの批判も多いが、発想は面白い。手は何とも不思議な魅力を放ちながら我々のココロをも掴む器官である。


三河正久(みかわ・ただひさ)日本経済新聞社バンコク支局長
1967年5月青森県八戸市生まれ。1992年日本経済新聞社入社。同社産業部や『日経ビジネス』編集部で企業取材を担当。2007年3月から現職。共著に『ゴーンが挑む7つの病|日産の企業改革』『トヨタはどこまで強いのか』など。小学生のころ指の形は褒められたことがあるものの、中学生以降にバレーボール部に入って指の節が太くなり、たびたび突き指もしたためか形が悪くなってしまった。もったいないことをした。
Posted by Webスタッフ at 00:00